= アニキと最初の大冒険(望郷編) =

 そんなこんなで何とか11時前には前オーナー宅を出発して一路東京を目指す。ルートは来た道と逆。まずは天理まで出た後に名阪国道と呼ばれる高速並に整備された道で亀山まで。そこから東名阪自動車道で名古屋に出た後東京に向かう。・・・はずだった。とりあえず腹がモーレツに減ったのでファミレスに入り、ちょっと一服。さてそろそろ行きますか、と席を立った僕たちは、レンタカーの返却期限に間に合わすには夜通し走らなきゃいけないな、なんて考えていた。状況をきょとんと見守るうちのアニキを背負って天理を抜けて名阪国道にはいる。そんなときである。名古屋在住のK氏からの謎の留守電に気づく。名古屋は凄いことになっていて今晩は帰れそうにない、とのこと。そしてF氏の彼女からお見舞いの電話が・・・。何か変だ。

 異変に気づき情報を集めたところ、名古屋を台風に伴う前線が直撃している模様。市内はほぼ全域で水浸し。交通も麻痺しているらしい。高度情報化社会非対応の我らが車載車のラジオは、名古屋での災害をリアルタイムで報道していたはずのAM放送は一切受け付けず、NHK-FMのクラシックを優雅に奏でていた。それからは情報収集に走る。とは言っても自分の携帯は家を出るとき大事に下駄箱の上に置いてきたので、電話で情報を集めるのはもっぱら運転中のF氏。(ホント、すまなかった。)亀山に着いたときには何とか東名阪が前線で通行止めだということがわかった。確かに止まっていた。情報が遅すぎた。

  そこからはめげずに国道を伝って名古屋を目指したが、四日市で渋滞に捕まった。名古屋方面へ向かう車が道にあふれ、23号線は駐車場。反対車線はがらがらで、時折通る車がはねる水しぶきは、トラックを飛び越えて助手席側の窓からも車内を濡らすほど。結局一時間で進んだ距離は数メートル。午前3時を過ぎてもまだ四日市に到達できないでいたところ、脇の小道から車が時折出てくる。地図で見ると23号線と併走している1号線へ通じるらしい。で、車を降りてその小道からこぼれてくる車のうちの一台を止めて事情を伺う。

 女性二人で乗る車だったため、窓をノックしても警戒されてなかなか答えてくれない。何とか話が通じると、1号線の方がここより断然空いているとの情報をゲット。急遽1号線へ乗り換える。1号線へ出てみると嘘のようにスムーズに流れる。快適に走りながら行く手の道を見つめると・・・、藁が落ちている。そこら中に。周りを見渡すと田んぼだらけ。どうやら1号線は少し前まで冠水していたらしい。道理で路上に無造作に止められた車が多かったわけだ。歩道に強引に乗り上げて放棄された車は、冠水のために走行をあきらめられたかららしい。1号線を避け、23号線へ車が殺到している理由がその時初めてわかった。

 名古屋は川と橋の町である。市内には幾筋かの川とたくさんの橋があり、それが故に通行止めの箇所が非常に多い。午前5時少し前に何とか名古屋市内へ突入したが、いたるところで通行止め。何とか通れた橋の上で、呆然と増水した川を眺める市民の姿が印象的だった。そのときの川の水位は土手の上まであと約1mといったところ。市内の主要幹線道路には放棄された車が散乱し、水没箇所もまだ残されていた。

  東名は豊田〜大高間が通行止めだったため、豊田ICを目指す。夜が明ける頃には名古屋市中心部にかなり近づいたが、道路には東名の通行止め解除を待つ大型車があふれかえり、ここでも交通は寸断されていた。国道を避け県道で名古屋脱出を試みた矢先、道が川になった。水深が読めないためかなり不安になりハンドルを握る相方を横目で見やったが、徹夜明けの早朝である。遠い目をしてフツーに突破。アニキとローダーは朝風呂を浴びた。無意識のうちに握りしめていたドアの取ってから手を離しF氏を再び見つめると、黄泉の国から差し込む神秘の光に導かれるかのように半開きの目でその先を見つめていた。そっと目をそらしてアンビリバボーな超常現象を目撃しただけだと自分に言い聞かせる。

 何とか名古屋を脱出し、順調に流れたのもつかの間、豊田IC付近にも通行止め解除を待つ大型車が溢れかえる。片側3車線のうち中央の車線を除いて大型車が駐車。ほんの1.5kmを通過するのに2〜3時間かかった。非常識極まりない大型車の傍若無人ぶりには声を大にして抗議したい。

 何とか東名豊田ICにたどり着いたのが午前10時過ぎ。乗ってしまうとあとは楽。道は僕らのために用意され、王様として走っているかのようだ。それにしても確かに上り車線の空きようも凄かったが、下り車線の混みようも凄かった。長距離トラックの運転手は道路にシートを広げて雑談したり、たまに紛れ込んだ自家用車のドライバーは車を置いて何kmか先のSAまで歩いて行っていたようだ。

 死ぬ思いで高速にたどり着いたので小腹が減った。最初のサービスエリアで食事をとる。そう易々と帰してくれないのがこの冒険の定めか。通行止め区間が延長され、三河安城までとなった。よって今いるところは通行止め区間内。これ以上通行止め区間が拡大されちゃたまらんと慌ててサービスエリアをあとにする。それにしても笑っちゃうのが通行止めの理由。大雨のためだそうな。豊田三河安城間は雨どころか、台風一過と見まごうばかりの強烈な日差しに晒されていた。路面も乾いていたから大雨だった形跡もない。結局三河安城を抜けて豊橋に至るまでの区間が激しい雨に見舞われたが、通行止めの兆しすらない。その後の帰路は雨に何度か降られたものの、特に何事もなく東京へ到着。結局予定を半日オーバーし、大雨による被害総額にレンタカーの延滞料金1万4千円を計上して冒険は終わった。

 

 
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